2019年12月31日火曜日

2019年 に読んで印象に残った本。

 年末なので、印象深かった本をまとめて。結構長い。順番は読んだ順。画像はアマゾンへのリンクになっている。

・齋藤飛鳥「屍実盛」


木曾義仲から依頼された難解な謎に、一族の命運を懸けて平頼盛が挑む!
第15回ミステリーズ!新人賞受賞作

1183年。寂れた京都に留まった、平家一門の唯一の離脱者・平頼盛の元に、ある日依頼が来る。京都を占拠する木曾義仲からで、「首のない五つの屍から、恩人である斎藤別当実盛の遺体を見つけてほしい」というものだった。断れば家族や家臣の命が危うくなると考え、頼盛は難解な謎に挑むことになるが……。『平家物語』や謡曲『実盛』に取り上げられた実盛の最期を題材にした、歴史ミステリの傑作!
第15回ミステリーズ!新人賞選考経過、選評=大崎梢 新保博久 米澤穂信

ミステリーズ!新人賞の受賞作品はだいたい読んでいるけど、これはトップクラス。余計なことが言えないので感想書くのを放棄したんだけども、読んで損はないはず。

・山田英春『奇妙で美しい石の世界』


草木が中に閉じ込められているようなデンドリティック・アゲート、現実の風景のミニチュアのような絵が石の中にあるパエジナ・ストーン、深い緑色でロシア女帝エカチェリーナ二世を魅了した孔雀石…。この世に無数に存在する石の中には、目を引く美しい模様を持ち、人を不思議な気持にさせるものが多くある。本書は、瑪瑙を中心に、美しい石のカラー写真を多数掲載。さらに、石に魅了された人たちの数奇な人生や歴史上の逸話など、国内外のさまざまな石の物語を語る。
近場に新しい本屋ができたと聞いて覗きに行き、ラインナップを眺めたらゴミみたいなヘイト本が一切なく、ジュンク堂に行きたくなくなった原因の百田尚樹パネルもなく素敵だったので、なんか買って帰ろうと思いつつ、さりとて自分の趣味とは微妙にズレていて、なんかないかと探しに探して購入した本。文面はほぼほぼ忘れたけれど、写真に撮られた石の断面図の美しさは印象深いままである。なお、本屋は大船って神奈川県の駅から徒歩数分、行政センター向かいに店を構えるポルベニールブックストアって言います(ウェブサイト)。有隣堂もジュンク堂もヘイト本プッシュしだして、すべてアマゾン、できればキンドルってスタンスで数年暮らしていたのだけど、この本屋ができてまたちょっと紙の本を買うようになった。潰れたらおれが困るんで、皆様お近くまでお寄りの際はぜひお立ち寄りを。いい本たくさん並んでます。

・白汚零『胎内都市』



あなたの足もとの地下深くに広がる、にわかには信じられないほど美しく幻想的な「地下水道」の世界。
一般人は入れない(危険だから)「下水道」の写真を、長年にわたって撮り続けている写真家白汚零。東京をはじめ大阪、名古屋、福岡、仙台、札幌など、その対象は全国にわたる。豊臣秀吉の時代の水路が元になった太閤下水から、童謡「春の小川」のモチーフとなった渋谷川の暗渠、明治期の美しい職人業の煉瓦造り、そして最新の樹脂パネルで被覆されたSF世界のような下水道まで。誰も目にすることのできなかった驚きの光景が、時に油彩画と見まがうほど美しいアート作品のように展開される。全80点を収録。
  読了時の感想はこちら。むっちゃかっこいい写真集。

・倉橋耕平『歴史修正主義とサブカルチャー』


「紀伊國屋じんぶん大賞2019――読者と選ぶ人文書ベスト30」第2位に選出!
メディアにヘイトスピーチやフェイク・ニュースがあふれ、「右傾化」が懸念される現代日本。「歴史修正主義(歴史否定論)」の言説に対する批判は、なぜそれを支持する人たちに届かないのか。歴史修正主義を支持する人たちの「知の枠組み」を問うために、歴史を否定する言説の「内容」ではなく、「どこで・どのように語られたのか」という「形式」に着目する。現代の「原画」としての1990年代の保守言説を、アマチュアリズムと参加型文化の視点からあぶり出す。「論破」の源流にある歴史ディベートと自己啓発書、読者を巻き込んだ保守論壇誌、「慰安婦」問題とマンガ、〈性奴隷〉と朝日新聞社バッシング――コンテンツと消費者の循環によって形成される歴史修正主義の文化と、それを支えるサブカルチャーやメディアの関係に斬り込む社会学の成果。******************酒井隆史さん(大阪府立大学)、推薦!なぜ、かくも荒唐無稽、かくも反事実的、かくも不誠実にみえるのに、歴史修正主義は猛威をふるうのか? いま、事実とはなんなのか? 真理とはなんなのか?真理や事実の意味変容と右傾化がどう関係しているのか?「バカ」といって相手をおとしめれば状況は変わるという「反知性主義」批判を超えて、本書は、現代日本の右翼イデオロギーを知性の形式として分析するよう呼びかける。キーはサブカルチャーである。わたしたちは、本書によってはじめて、この現代を席巻する異様なイデオロギーの核心をつかみかけている。この本は、ついに現代によみがえった一級の「日本イデオロギー論」である。

読了時の感想はこちら。いろんな知見を提供してくれる本だけど、稲田朋美の歩みを「『保守ハガキ職人』のシンデレラ・ストーリー」と喝破したところが最高に笑えた。二〇〇〇年代のフェミニズムに対するバックラッシュと九〇年代から今に至る歴史修正主義が地続きであるという指摘なども重要だと思う。

・中村雅雄 『おどろきのスズメバチ』



昆虫の生態系のトップに君臨するスズメバチ。近年は都市部にも巣をつくり、人を襲うおそろしい「害虫」として悪名高い存在です。しかし、彼女たちの立場から人間や環境を見てみると、いちがいに害虫と決めつけられないことに気づかされます。たくみな巣作り。数百頭もの巨大なファミリー。働きバチのあざやかなハンティング。女王バチと働きバチ、幼虫たちの不思議な関係。そこには、人間社会にも通じる精妙な自然の営みがあります
昆虫の生態系のトップに君臨するスズメバチ。近年は都市部にも巣をつくり、人を襲うおそろしい「害虫」として悪名高い存在です。しかし、彼女たちの立場から人間や環境を見てみると、いちがいに害虫と決めつけられないことに気づかされます。たくみな巣作り。数百頭もの巨大なファミリー。働きバチのあざやかなハンティング。女王バチと働きバチ、幼虫たちの不思議な関係。そこには、人間社会にも通じる精妙な自然の営みがあります。40年以上、スズメバチを研究し続けてきた著者の目を通して、意外と知られていないスズメバチの生態、自然のすばらしさ、環境問題、人間とスズメバチの関わりを伝えます。この一冊で、スズメバチ博士になれるだけでなく、身近な自然に思いをはせる想像力を養います。
 手乗り蜂ウーチャンの動画を見た衝撃(衝撃のままに書き殴ったポストはこちら。動画お勧め。)で思わず読んだ本。 感想はこちら。当時は品切れだったけど、今商品ページ見てみたらキンドル版出てた。楽しい本だよ。

・俵万智『サラダ記念日』



生きることがうたうこと…うたうことが生きること―なんてことない24歳が生み出した感じやすくひたむきな言葉。31文字を魔法の杖にかえ、コピーライターを青ざめさせた処女歌集。現代歌人協会賞受賞。
 読了時の感想はこちら。今年であったかというくらい記憶が遠いが、言葉の使い方うまいなあって思ったのは間違いない。今年だとあと言葉の使い方うまいなあって思ったのは梨木香歩だった。

・ケインズ Teamバンミカス(トーエ・シンメ)『雇用・利子および貨幣の一般理論 ─まんがで読破』


第一次世界大戦で疲弊しきったイギリス経済は、失業率25%という大不況にあえいでいた。しかしこの国家の危機にも、経済学の主流である「古典派経済学派」は古い価値観にとらわれ、「いずれ時が解決してくれる」という姿勢から離れない。経済学者として、また財務官僚として一級の感覚を持っていたケインズは、この状況に疑問を持ち、そしてひとつの結論に達する。「不況が経済理論どおりに解決しないのは、イレギュラーな事態だからではない。 経済学そのものが、発展した社会から取り残されているからだ!」ケインズは全精力を傾け、現代の社会に対応した経済理論を開発する。それこそが、いまや経済学の教科書となった『雇用・利子および貨幣の一般理論』なのである。経済学を「近代」から「現代」へ一気に進化させた革命的な一書を、マンガ化。
 読了時の感想はこちら。「まんがで読破」のシリーズがやたら安かったことがあって、そのときにあれこれ買った1冊だったか、これが面白かったからほかのにも手を出したのだったか。とりあえずこれが一番面白かった。ケインズがブルームズベリーグループと喧嘩するところとかうまく省筆されててテンポがよかった。漫画ということでは、『ロジ・コミックス ラッセルとめぐる論理哲学入門』(amazon)も今年の収穫であった。

・柴田宵曲『古句を観る』



権勢に近づかず人に知られることを求めずして一生を終えた柴田宵曲(1897‐1966)。だが残された書は人柄と博識ぶりを伝え、一度その書に接したものに深い印象を与えずにはおかない。本書は、元禄時代の無名作家の俳句を集め、評釈を加えたもの。今も清新な句と生活に密着したわかり易い評釈が相まった滋味あふれる好著。
 読了時の感想はこちら。今年いっぱい読んだ作家といえば、柴田宵曲。話題を日本文学に限定してふんぞり返るのをやめた澁澤龍彦みたいな随筆家。春先に貪り読んで、著作権が切れているのに気づいて何本か随筆を入力してKDPしたり、ついには古本屋で文集全ハ冊をまとめ買いしたりもしたが、そのあたりでブームいったん収束し現在に至っている。数年以内にはまた読み出す予感はある。どれをここでピックアップするかちょっと考えたのだけど、やっぱり口火を切った本書かなと。これをきっかけに正岡子規(柴田の師匠筋に当たる)の『歌よみに与ふる書』なんかも読んだ、そういえば。

・安田浩一・倉橋耕平『歪む社会』



なにがリアルで、なにがフェイクなのか?通説をねじ曲げ、他者を差別・排除し、それが正しいと信じる。そんな人たちが、なぜ生まれるのか?『ネットと愛国』のジャーナリスト・安田浩一と『歴史修正主義とサブカルチャー』の社会学者・倉橋耕平が、90年代から現在に至る右派の動向について徹底討論! 
 読了時の感想はこちら。『歴史修正主義とサブカルチャー』の倉橋耕平と『ネットと愛国』(amazon)の安田浩一の対談。特に印象深かったのは以下に引用する安田の言葉。

ヘイトスピーチの最大の害悪は、被差別当事者に沈黙を強いることだと僕は思っています。黙らせる、あるいは表現や言葉を奪いとる。友人たちが沈黙しているのは、巻き込まれたくないからです。巻き込まれて嫌な思いをしたくない。傷つきたくない。絶望したくない。そして言葉を奪われたくない。自由な表現を失いたくない。そう思っているからです。
リベラル陣営の一部からも「ヘイトスピーチも表現のひとつ」だとして、ときに容認論のようなものが飛びだしますが、冗談じゃない。マイノリティの表現が奪われているのに、自由も何もあったもんじゃない。

・スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』



チェッカーズの唯一無二の音楽性。その魅力を音楽探偵・スージー鈴木が解き明かした!大土井裕二氏、鶴久政治のロングインタビューも濃い話がいっぱい。45歳以上全員必読。……本タイトルを分析する。タイトルの前半=「チェッカーズの音楽」は、これまで、 意外なほどに語られなかった彼らの音楽そのものと、しっかり向き合いたいという意志を示している。今一度シングル曲を丹念に聴きこみ、その魅力の幅・高さ・奥行きを正確に測定するという、けれん味のないアプローチを心がけた。タイトルの後半「その時代」は、あの80年代を、できるだけリアルに描き出したいという目論見を表す。具体的には、私のパーソナルヒストリーの中にチェッカーズを位置づけるという、少々差し出がましい手法を用いた。この手法は、呆れるほど撒き散らされて来た「80年代=トレンディなヤングがバブルに浮かれ・踊っていた時代」という実に乱暴なパターン認識に対する対抗措置でもある。 (本書「はじめに」より)アマチュア時代、ビジネスの事などこれっぽっちも考えず、ただただロックンロールへの初期衝動だけに突き動かされて、無心に声を合わせる少年たち。これはもう映画「ジャージー・ボーイズ」の世界だ。最高に映画的な光景。時間旅行が可能なら、声を合わせている彼らに伝えてあげたい-君たちが「後にも先にも横にもない、日本唯一のチェッカーズ」になるんだぞと。
 読了時の感想はこちら。今年いちばん思い返した本かもしれない(笑)キンドル版が出てるのに気がついてキャーーーってなった。忘年会みたいなものに出ていた際、今年の推しはと唐突に振られて、素直に藤井フミヤと答えたら、おまえに似合うのは○○○○だ! と、ちょっと通好みっぽいのかマニアックなのかわからないアーティスト名を出されたのだけど、基本間口の広い素敵なものが好きなミーハー気質です。

・霜月蒼 『アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕』



英国ミステリの女王、アガサ・クリスティー。作品数が多いゆえに、どれから読んでいいかわからない。有名作品以外も読んでみたい――そんな要望にミステリ評論家の著者が応え、一冊でクリスティー100作を網羅した傑作評論集にしてブックガイド。『ポアロとグリーンショアの阿房宮』の評論を特別収録。第68回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、第15回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)受賞作。解説:杉江松恋
 読了時の感想はこちら。いいところも残念なところも感想に書いておいた。クリスティー読んでみようかなと思ったときの参考書としては優秀だと思う。

・白井聡 『国体論 菊と星条旗』



天皇とアメリカ誰も書かなかった日本の深層!明治維新から現在に至るまで、日本社会の基軸となってきたものは「国体」である--。象徴天皇制の現代社会で「国体」? それは死語ではないのか? 否、「国体」は戦後もこの国を強く規定している。一九四五年八月、大日本帝国は「国体護持」を唯一の条件として敗戦を受け容れた。ただし、その内実は激変した。「戦後の国体」とは、天皇制というピラミッドの頂点に、アメリカを鎮座させたものなのだ。なぜ、かくも奇妙な「国体」が生まれたのか。「戦後の国体」は、われわれをどこに導くのか。『永続敗戦論』の白井聡による、衝撃作!
 読了時の感想はこちら。とにもかくにも熱い本。みんな読むべしって思ったし思ってる。『永続敗戦論』(感想)もよかった。

・ 宮内悠介『偶然の聖地』


小説という、旅に出る。国、ジェンダー、SNS――ボーダーなき時代に、鬼才・宮内悠介が届ける世界地図。本文に300を超える「註」がついた、最新長編小説。秋のあとに訪れる短い春、旅春。それは、時空がかかる病である――。人間ではなく世界の不具合を治す“世界医”。密室で発見されたミイラ化遺体。カトマンズの日本食店のカツ丼の味。宇宙エレベーターを奏でる巨人。世界一つまらない街はどこか・・・・・・。オーディオ・コメンタリーのように親密な325個の注釈にガイドされながら楽しく巡る、宮内版“すばらしい世界旅行”。“偶然の旅行者”たちはイシュクト山を目指す。合い言葉は、「迷ったら右」!――大森望(書評家)この小説を体感していると、混沌と秩序って、向こう岸にあるのではなく、隣にあるのではないかと思えてくる。生きる上で生じたバグに体を浸し、誰かと誰かのハブになる。バグとハブもまた、隣にあるのではないか。1ページごとに困惑がやってくる。困惑がやがて快楽に変わる。困惑と快楽、これもまた隣にある。一体どういうことだろう。――武田砂鉄(ライター) 
 読了時の感想はこちら。 上のあらすじを読んでそんな話だったかと思い出す。本文を忘れてしまうほど遊んでいる註のインパクトが強い。こういう小説もありなんだと思うかも。

・津原泰水『赤い竪琴』


この出会いは「運命」祖母の遺品にあった日記をきっかけに、私と彼は出会った――過去に結ばれる事が叶わなかった思いが、時と共に新たな感動を呼び起こす受け継がれた“絆”と“謎”、津原泰水が描く珠玉の恋愛小説
その頃の私はいつも、どこか疲れていたし注意力散漫だった。蓄積していた疲れは私を無気力にした――漠然とした不安のなかで日常を過ごす三十代のグラフィックデザイナー・入栄暁子は、祖母の遺品から発見された、夭折の詩人・寒川玄児の日記帳を手渡すため、その孫である古楽器職人に会いに行く。この、無愛想な男との出会いは、沈んでいた暁子の心を強く揺り動かした。彼は日記の礼にと、暁子に自作の竪琴を託すが。二人とその祖父母を繋いだ“絆”と“謎”を鮮やかな筆致で描いた、静謐な恋愛小説。解説=日下三蔵
 今年の津原泰水と言えば、幻冬舎と袂を分かって早川から出した『ヒッキーヒッキーシェイク』(amazon)のスマッシュヒット、又吉効果で売れ始めたらしい『綺譚集』(amazon)の印象かもしれないが、自分的には『綺譚集』と一緒に復刊されたこの長編『赤い竪琴』を推したい。「静謐な恋愛小説」で間違いはないものの、大映ドラマ・ミーツ・『バグダッド・カフェ』みたいなコンセプトがあったんじゃないかと思うような筋の運びで、そこがとても面白い。もちろん、文章は絶品である。

・サイ・モンゴメリー 小林由香里訳『愛しのオクトパス』


心臓は三つ、退屈が大嫌い、生涯で一度だけ恋をする。私はタコ。あなたは誰?
タコほど人間とかけ離れた動物はそうそういない――タコについて専門的な知識もほとんどなかった著者は、ある日ボストンの水族館で1匹のタコと出会う。アテナ、オクタヴィア、カーリー、カルマ……個性豊かなタコたちと、八本の腕と吸盤を通して交流を重ねるうち、著者は他者なるものが持つ「もうひとつの知性」の可能性を感じ始める。
愛すべきタコたちと彼らを取り巻く人々との思い出を綴った、2015年全米図書賞・ノンフィクション部門最終候補作。
カバーイラスト:望月ミネタロウ装丁:五十嵐哲夫
 今年はスズメバチの可愛さに眼をひらかれた年だったわけだけど、タコの可愛さに眼をひらかれた年でもあった。この本読んで以来、水族館に行きたくて仕方ない。全水族館がお土産コーナーに置くべき本。書いてあることはこれすべて愛である。いや、ほんと面白いし、タコが可愛い。タイトルに偽りなしでまさに愛しのオクトパス。

・有栖川有栖・磯田和一『有栖川有栖の密室大図鑑』


有栖川有栖デビュー30周年記念復刊「密室」解き明かします。詳細イラストとともに贈る東西41の密室。
本格ミステリの魅力的な要素のひとつ、密室トリック。犯行状況を思い浮かべたり、作品に挿入されている図版に心躍らせたりする読者の方も多いはず。本書は、1892年~1998年に発表された国内外の名短編、名長編、中でも魅惑的な密室が登場する作品を有栖川有栖がセレクトし、磯田和一の詳細なイラストとともに贈るブックガイドである。発表順に “世界最初の長編密室ミステリ"といわれるイズレイル・ザングウィル『ビッグ・ボウの殺人』をはじめ全41作を紹介。密室ファン必携の書。
 読了時の感想はこちら。今年は柴田宵曲もよく読んだけど、冊数で行くと有栖川がそれを上回った。国名シリーズを『モロッコ水晶の謎』までまとめて読んだ(感想)。きっかけは火村英男のドラマと本書。『マレー鉄道の謎』とか、面白かったなあ。

・澤田治美『意味解釈のモダリティ(上)(下)』



今年は『ヘミングウェイで学ぶ英文法』(amazon)とか『英文解体新書』(感想) がよく売れて、ちょっとした英文法復権の機運の高まりが見られているらしい。時々英文法がマイブームになるので、そうした動きは大歓迎。で、今年読んだ英文法関連本で当たりだったのがこれ。モダリティってのは話者の気分みたいな感じで、その表現の代表格が助動詞。なので話の中心は助動詞。willとかmustとか。あんまり面白かったので二回読んだ。

・織田朝日『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』


「どうしよう、きっと私、捕まる」
母国を追われ、日本に逃れてきた難民たち。でも、日本の難民認定率は、1%未満。そもそも難民とは?日本の現状は?入管で何かおこなわれているのか 難民支援にたずさわる著者が、わかりやすく解説!
◆はじめにみなさんは、「難民」を知っていますか あまりかかわりがないことなので、難民といわれても、なんとなくはわかるけど、具体的にはよく知らないという人のほうが多いのかもしれませんね。
難民とは、たとえば自分の国で起きた戦争や迫害、差別からのがれるため、他国へ避難する人たちのことです。
難民のいき先はさまざまありますが、日本も「難民条約」を結んでいる国のひとつであるため、日本にもやってくる難民はいるのです。どんな思いで日本へ来て、どんな境遇で、どんな生活をしているのでしょうか。
また、さいきんになってニュースでは「非正規滞在者」という存在にライトが当たりはじめました。彼らは、滞在する資格はないながらも、日本で暮らしている人たちです。これを読んでいるみなさんとは生き方がちがうけど、私たちとなんら変わりはない人たち。そんな彼らのことを、この本を読んで少しずつでも知っていただけたら、こんなにうれしいことはありません。
みなさん、はじめまして。織田朝日と申します。2004年から日本で暮らしている外国人を支援する活動をしていて、かれこれ今年で15年目となります。外国人の支援といってもたいそうなことはできていないので、えらそうなことは言えません。ですが事情があって母国に帰れない人たちによりそい、ともに歩み、私なりにがんばってきました。「編む夢企画」といって難民の人たちとクリスマスパーティを開いたり、難民の子どもたちと動物園に行ったり、お花見をしたりととにかく楽しいことをやっています。
さらに具体的にどんなことをやっているのか、これから紹介していきたいと思います。みなさんに伝えたいことは、たくさんあります。どうぞ最後までお付き合いください。
 今年の五月、長崎の入管でハンストの結果、亡くなった人が出て、それを引き金に各地の入管で大規模なハンストが始まり、入管の無期限長期収容、収容者への人権侵害にようやく少しスポットライトが当たり始めた。著者は支援活動を十五年続けている人で、本書の前半では幼い頃から知ってる女の子が収監されたと聞いてショックを受ける。幸い、その方は現在仮放免中ではあるけれども、まだ全国で百人単位の人が閉じ込められている。そして、そのトピックに関する情報は驚くばかりに少なく、デマと悪意の波に掻き消されている。最近出た本だと本書や『日本で生きるクルド人』(amazon)なんかはこのないことにされているトピックを伝える良書だと思う。普段は読み終わっても絶句してしまってなかなか感想を書く気になれないんだけど、ほんとはみんなが知らなきゃいけないことだし、替えなきゃいけない制度なので、せっかくだから紹介させてもらった。


・ヒッチコック トリュフォー 山田宏一 蓮實重彦訳『映画術』



 フランソワ・トリュフォーがヒッチコックにその時点での全作品について行ったインタビューの記録。年末にこのツイート見て本棚から引っ張り出し、まず『サイコ』関連ざっと眺めて、ツイートが話題にしている問題への言及がないことを知り、こんだけ喋ってるのに大事なことはダンマリだったのかとびっくりしたあと、言えることだけでこの分量になってるのがすげえって二度びっくりし、せっかく出したのだからということで通読した。で、久々に『39階段』と『バルカン超特急』見た。お金ケチってYouTube使ったから字幕もなし。セリフ半分も聞き取れなかったが、後者はそれでも面白くて三度驚いた。また読みたい。

・柿内正午『プルーストを読む生活』

著者note
最後はほかのとちょっと毛色の違う本を。知ったのは著者のnote……ではなく、ポルベニールブックストアのツイッター。楽しそうだなと思ったのですぐ買いに出かけた。2冊並んでいたやつの1冊をずいと抜きレジへ。買ってから謎の付箋が飛び出していることに言われて気づき、なんじゃこれと思ったらポルベニールが言及されている箇所であった。貼るんだ、付箋貼るんだと思ったので、そのままにして袋に入れてもらい、ほとんど一気読み。内容はプルーストを読むことにしたのでついでに日記もつけることにしたけど、ほかの本も読むし、奥さんが大好きだ、みたいな感じ?
大学時代の後輩にこんな雰囲気の文章書く奴いたなあとか思いつつ読み進めていったんだけど、なんかぼやかされた大学の立地が、どうもおれの出身校とかぶるようなかぶらないような。このパソコンルームってのはあのパソコンルームか? それとも別の学校のか? とか、どうでもいいことが気になったりした。著者は面白がるスイッチをいっぱい持っているようで、大抵の作品(ほとんどの固有名詞はおれにとって知らないか名前しか知らないかどっちかだった)はいいところを発見される。書いてあることはそれだけと言えばそれだけだが、いいとこ見つけた話は読んでいて気分がちょっと軽くなる。ときどき挿まれるプルーストへの言及は「お、あの辺読んでるね、これは」みたいな予想ができて、『収容所のプルースト』の感想でも書いたように、ほかの人が読んでることを前提にできない書物であってみれば「いま、きみ、読んでるんだね」って人に遭遇するのはとんでもなく嬉しいことだったりする。プルーストがドレフュス事件にどんなスタンスだったんだろうなんて疑問が書いてあると思わず紙面に向かってそれはだねえと捲し立てたくなったりした。ほんと、リアルタイムでnote読んでなくてよかった(迷惑な人じゃないか)。
で、この本が結構いい印象だったのに、個人出版(っていうの?)なもんだから読書メーターだとヒットがなくて、読書記録が残せないとなり、それは残念だからってことで書き出したのがこのエントリー全部だったりする。ポルベニールが入荷するなら二巻も買うつもり。

で、結局、何冊取り上げたんだろう、このエントリー。こんなに長い文書いたのは久しぶりだったんで、見直す気力は残っていない。印象に残った縛りにしては割とたくさん出たので、本については当たり年だったのかもしれない。

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