2019年2月4日月曜日

中村雅雄 『おどろきのスズメバチ』


このツイートを見て「うわあ、スズメバチかわいい」ってなって(動画見た勢いで書いたエントリがこちら:スズメバチのウーチャン動画 - U´Å`U)、ちょっとスズメバチのことが知りたいよと図書館行ってタイトルのインパクトで借りてきた本。子ども向けの本だったのだけど、なんにも知らないからこれで充分だろうと判断した。

内容紹介
昆虫の生態系のトップに君臨するスズメバチ。近年は都市部にも巣をつくり、人を襲うおそろしい「害虫」として悪名高い存在です。しかし、彼女たちの立場から人間や環境を見てみると、いちがいに害虫と決めつけられないことに気づかされます。
たくみな巣作り。数百頭もの巨大なファミリー。働きバチのあざやかなハンティング。女王バチと働きバチ、幼虫たちの不思議な関係。そこには、人間社会にも通じる精妙な自然の営みがあります。
40年以上、スズメバチを研究し続けてきた著者の目を通して、意外と知られていないスズメバチの生態、自然のすばらしさ、環境問題、人間とスズメバチの関わりを伝えます。この一冊で、スズメバチ博士になれるだけでなく、身近な自然に思いをはせる想像力を養います。
で、なんも知らないまま読み始めたので最初から「そうなんだー」が連発だった。
まず、ハチは大きくふたつのグループに分けられるのだそうで、ひとつが「くびれがないハチ」(ハバチやキバチ)のグループと「くびれのあるハチ」のグループ。スズメバチは当然後者。この「くびれのあるハチ」はさらに四つのグループに分かれるのだそうだが、そのラインナップにもびっくりした。引用するから見てくれ(知ってる人は「そこ、驚くところ?」ってなるだろうけど)。

「ハナバチ」
「寄生バチ」
「狩りバチ」
「アリ」
アリ!? アリがハチの仲間?

アリが集団で社会生活をするのは、ハチと同じ仲間だからなのですね。ただし、毒針は退化している種が多く、針で刺すかわりに毒液をふきかけて攻撃する種もいます。
「だからなのですね」とか言われるとそんな気もしてくるから不思議だが、アリとハチが同じグループなんて考えたこともなかった。そういやどっちも「女王」中心に群れができていたような気がしなくもない。ちなみに「ハナバチ」というのはミツバチみたいに蜜や花粉を集めるハチのことで、「寄生バチ」はヒメバチやコマユバチなど、チョウやカミキリムシの幼虫に卵を産みつけるハチ。「狩りバチ」は狩りをするハチの総称。
本書が追いかけるのはキイロスズメバチ。キイロスズメバチとは
日本でいちばんよく見るスズメバチで、もっとも大きな集団と大きな巣をつくることで知られています。大きいものになると、千匹の集団と、直径八十センチの巣をつくることもあります。
 とのことで、スズメバチにもさらに種類があることを知った。
四月、キイロスズメバチの女王は五ヶ月近い冬眠から目覚め巣作りを始める。慎重に場所を定め、巣をつくる場所の候補地まわりを周回してまわりの景色を覚えていく。これを「オリエンテーリング飛行」という。スズメバチには学習能力があるのだ(だからウーチャンはあんなふうに人と馴染めたのだろうか)。で、近くの森の朽ち木をかみ砕いて自分の唾液と混ぜたものを素材に巣を作り始める(巣の色は素材資材で決まる。朽ち木メインなら明るいミルクコーヒー色の模様ができ、スギの皮が多いと暗い焦げ茶になるといった具合)。最初に作るのは巣の大もとになる支柱で、次が正六角形の「育房」(子育てのための小部屋。これが正六角形になるのは、触角で長さを測りながら作っているからなんだとか)。育房の集まりを「巣盤」という。育房が三部屋ほどできた段階で最初の産卵を開始。前年の秋に交尾して溜め込んだ精子を体内で卵子と受精させて受精卵を作っているらしい。生まれるのは全部メス。交尾しないで生んだ卵からはオスが生まれるともあって、なんか不思議な話である。

最初の成虫が羽化してくるまでのこの時期、女王バチは巣の掃除と産卵、狩りと幼虫へのエサやり、外敵からの守り、自分の食事、巣の増築、給水など、すべての仕事を、たった一匹でこなさなくてはなりません。
大変だ。女王っていうかシングルマザーである。しかも子どもはどんどん増える。育ち盛りになってくると休む間もなく狩りに出て、エサを確保しなけりゃならない。なんだけども、スズメバチの幼虫はただエサをもらうだけではなく、ママにごはんをあげてもいる。

女王バチは狩りに出かけるとき、大きな幼虫ののど元を大あごで刺激して、透明な液のようなものをもらっています。じつは、これが女王バチの栄養ドリンクになっているのです。
この透明な液は、幼虫だけが出すことができるものです。女王バチや働きバチの栄養になる飲み物で、彼女たちが活動するためのエネルギーになる糖分などがふくまれています。その栄養は、一回受けとると二時間近くも活動ができ、一説には、一日に百キロメートルも飛べるエネルギーの源になると言われています。
そうやって栄養補給しながらお母さんの奮闘は続く。やがて幼虫は脱皮(このとき初めてフンをする。幼虫のあいだはフンをしないのだそうな。このフンは働きバチが育房の底を塗り固めて巣を強くする材料にする。無駄がない)して、やがてさなぎになる。さなぎは十五日ほどで羽化をする。これが働きバチになる。孵化から羽化まではだいたい一ヶ月くらいらしい。働きバチの寿命はだいたい一ヶ月。女王バチの寿命はざっと一年で生涯に1~3万個の卵を産む。
働きバチが増えてくると、巣が手狭になるため、増築が繰り返されるが増築が不可能な場合は別の場所で一から巣を作りなおす。このときは働きバチが候補地を決め、匂いをガイドにして女王バチが移るのだけど、まれに女王バチが引っ越し先にたどり着けないこともあるのだとか。うまく引っ越した場合、元の巣はすぐに廃棄されるのではなく、一部の働きバチが残って幼虫が育ちきるのを待つらしい。 そうなんだあと思いつつも、子育て最優先ってイメージは確かにあるので驚くようなことではないと思っていたら、驚くような話がその先で出てきた。

長雨が続くとエサとなる虫たちはすがたをかくしてしまうので、狩りは思うようにいかなくなります。幼虫はエサが途切れると、成長が止まってしまうので、これは一大事です。そんなとき、働きバチは非常用のエサに手をつけます。
非常用のエサってなんだと思う? なんと「大きく育った幼虫」。つまりデカくなった幼虫をバラして、ほかの幼虫に与えるというのである。これ、かなりびっくりした。そういう非常手段を取れるように、普段から必要以上の数の幼虫を育てていると書いてあって、「ように」って言っちゃっていいのかという疑問もわいた。
と、こんな具合に巣の運営メインで五章まで進み、六章になると、毒針の話が始まる。これまた意外なことにスズメバチの針を狩りには使わない。針は天敵撃退のための武器なのである。自分たちのなわばりにおかしな「におい」(スズメバチは女王からにおいづけされていて、同じにおいがすると仲間だと見なし、そうじゃないと敵だと判断する。ウーチャンがほかの個体と馴染めなかったのってにおいが違ったのかな、とか思った)が「震動」とともにやってきたとき、彼女たちは警戒態勢に入る。ただすぐに攻撃するわけではなく、まず「警戒行動」(相手のまわりをぐるぐる飛びまわる)をし、次に「威嚇行動」(あごをカチカチならしながら仲間を呼び、集団でいつでも攻撃できる態勢を整える)に移り、それでも相手が立ち去らないと「攻撃行動」に入る。外でスズメバチと遭遇した場合には、最初の警戒行動の時点で立ち去れば攻撃されることはないとのこと。威嚇行動に入った場合も、
体を大きく動かさないようにして、巣から静かに遠ざかれば、大事にはいたりません。スズメバチの目は、やや上のほうの視野が広く、下のほうは見えにくいので、なるべく姿勢を低くして、その場を立ちさりましょう
とのこと。両手をはげしく振り回して追っ払おうとするのは論外だそうなので気をつけましょう。黒いものを身につけていても狙われやすいのだとか。
なお、スズメバチに刺されないためには、「巣を見つけても絶対にいたずらしないこと」が絶対条件で、「野外活動をするときは、かならず帽子をかぶり、スズメバチを刺激しやすい黒っぽい服装はさけましょう。しげみに入ったり、道から外れて歩いたりすることも、巣に近づいてしまう可能性があるので、やめたほうがいいでしょう」
刺された場合には、
1.刺されたところに、十分に水をかけながら、つまんで毒をしぼり出すようにする。「ポイズンリムーバー」という器具を使えば、より確実に毒をしぼり出せる。
2.刺されたところを冷やして、抗ヒスタミン剤の軟膏をぬる。
3.できるだけ早く病院に行く。
のが対処法。 ポイズンリムーバーがどこに行けば買えるかわからないそこのあなた。amazonがあります

六章が終わると、冬に向かって新世代女王バチたちの越冬準備と巣の終焉が語られて、そこはかとなく寂しい気持ちでお話は終わり、最後に生物多様性の話が出て本書は終わる。なんで急にざっくりまとめたかと言えばいい加減長くなりすぎていることに気がついたからである。知らない話題ってのはあれもこれも記録しておきたいというか、カットしていい箇所の判断ができないからどうしても長くなるんだが、今回いささか長くなりすぎ。
そうそう、あともう一点だけ。人間からしてみると遭遇したスズメバチにどう対応するかも大事だけど、「そもそもスズメバチが近づいてこない方法ってないの?」ってのが、切実な疑問。ウーチャン可愛かったけど、人間は基本スズメバチから敵認定される可能性が高いし、適切な距離(お互いに安全な距離)が保てればそれに越したことはないわけで。著者もスズメバチの嫌がるにおいを研究しており、木酢液を霧吹きで撒いたらスズメバチが遠ざかっていったと書いてある。今年の夏は使ってみようと思った(なお、絶対確実とは書いていなくて今後も実験を重ねると書いてあった)。木酢液がどこで買えるかわからない? amazonがあります。
にしても、一昨日までかけらも知ろうと思わなかったスズメバチについて、本を読もうと思わせるのだから、可愛いってすごい。スズメバチ関連の本をまだ読みたい気分ですらある。今回読んだ本は、最初に触れたように小学生向けで敷居がとても低く、それでいて『おどろくべきスズメバチ』というタイトルもフカシではなかった(特に女王バチのイメージが変わった。女王なのに、こんなに大変だったとは)。
エントリーが長くなった原因のひとつは、本書がすでに品切れだということにある。著者プロフィールを見ると「百田尚樹氏の小説『風の中のマリア』(講談社)に、スズメバチの生態やエピソードなどを提供」とあったのだけど、講談社さんにはそんなネタ提供させるより、この本を文庫化していただきたかった。今からでも考えていただきたい。いい本じゃん、これ。スズメバチに興味を持った際には、図書館に置いてあったら読んで損はない。古書価格も安いので購入するのもお勧めだと思う。





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