2020年5月17日日曜日

ジェイムズ・ヤッフェ 小尾 芙佐 訳 『ママは何でも知っている』



 なんともクラシックなタイトルと表紙で逆に気になって、訳者が小尾芙佐だからどうやっても読了できるだろうと読んでみた。

毎週金曜の夜、刑事のデイビッドは妻を連れ、ブロンクスの実家へママを訪れる。ディナーの席でいつもママが聞きたがるのは捜査中の殺人事件の話。ママは"簡単な質問"をいくつかするだけで、何週間も警察を悩ませている事件をいともたやすく解決してしまう。用いるのは世間一般の常識、人間心理を見抜く目、豊富な人生経験のみ。安楽椅子探偵ものの最高峰と称される〈ブロンクスのママ〉シリーズ、傑作短篇8篇を収録。

 というあらすじでおおむね紹介が終わっている感じもするが、味付けとしてデイビッドの奥さんで心理学に詳しいシャーリイも同席していて(していないエピソードもあった)、インテリな嫁とのやんわりとしたバトルなんかが挟まったり、ママに彼氏を作ろうというもくろみのもと途中からデイビッドの上司も参戦したりして、外枠がワンパターンにならない工夫がされているところが面白かった。おまけに明確には書かれていないんだけど、エピソードごとに着実に年をとっているみたいで、50代だったママがいつの間にやら63になっていたりし、上司の見た目も変遷したりもする。息子が事件を持ち込み、ママがいくつかの質問をして鮮やかに解決するという背骨の部分以外はマンネリに見えてそうでもない。

 話としては最後のエピソード「ママは憶えている」が、一本で二つの事件を解決する構成になっていて、「うわ、新しい」ってなった。「田舎の刑事の趣味とお仕事」(感想)もそんな構成だったけど、ヒントになったりしていたのだろうか。当然ボリュームは増えるので、それまでのコンパクトさは薄くなったけど、伸びた分、さらに面白くなった気がした。伸びるとだらける作品もあるから、これは作者が上手なんだなと思った。

 印象的な台詞は「ママが泣いた」に出てきた。このエピソードでは、シャーリイが来ていないので、ママがデイビッドに子供はまだか、みたいなことを言い、子作りに積極的でない息子夫婦のことを嘆く。で、デイビッドが「子は、宝というより厄介なものだって、ママはよくいうじゃないか」と反論する。
「(……)ママのお気に入りの文句があるだろう――“赤児のときは親の家具を傷つけ、大人になると親の心を傷つける”」
「それは否定しないわよ」とママはぴしりといいかえす。「そういう傷心の思いがなかったら、人生って味気ないんじゃない?」

 思わず、「なるほど」と思ってしまった。

 読んだのがキンドル版だからか解説がついていなかった。誰が何かいているのか気になる。

 で、ここまで書いてからね、たとえば都筑道夫の「退職刑事」を念頭に置くなら、このシリーズ短編8本で終わってるのだろうかと気になり、あらすじ見返すと「傑作短編8篇」となっているので、ほかのがあるのかなと検索をしてみた。こういうときあってうれしいアガサーチさんの記事でやっぱり8篇以外にもあるんだ(長編になるんだってさ)ということがわかったが、結構衝撃的なことが書いてあったので、リンクを貼れなかった。マジか、そうなるのか。


ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 アマゾンで検索してみたところ、これ↓が英語版っぽいのだが、どうやら一本未収録の短編が存在している模様(2002年の『ミステリーズ!』に掲載されているそうな)。探して読んで見よっかなあ。いや、割と面白かったんですよ、ほんとに。

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