2019年10月6日日曜日

有栖川有栖 磯田和一 『有栖川有栖の密室大図鑑』


 「ビギナーにもマニアにも楽しめる密室のガイドブックで、読んでも観ても楽しい本」というコンセプトで作成された密室作品紹介本。紹介されているのは40+1作品。選択基準は(1)密室トリックとしての出来がよいこと。(2)トリックが歴史的な意味を有していること。(3)密室の設定がユニークであること。(4)作品そのものが面白いこと。(5)解説したくなる要素を含んでいること。(6)絵にして映えること。の六つで一次審査を行い、さらに(1)並べた時、密室の設定とトリックの中身にバラエティが出ること。(2)他の人が語り尽くした見方をなぞるのは避けること。(3)発表年代が著しく偏らないこと。(4)入手が容易なものを優先すること。という基準でさらに選別したそうである。そうして選び抜かれた作品に有栖川が解説を書き、磯田が主に現場の見取り図を添える(キンドル版だとこのイラストを大きくできるので細かいところまでよく見えて楽しい)。
 ミステリーのブックガイドでは先だって『アガサ・クリスティー完全攻略』(感想)を取り上げたけれど、あれほど煽ってはこない。ただ、紹介されていて読んでない作品について、読んでみたいと思わせる力は勝るとも劣らない。以下、取り上げられた作品をリストにしてみた。

・ビッグ・ボウの殺人  イズレイル・ザングウィル
・十三号独房の問題   ジャック・フットレル
・黄色い部屋の謎    ガストン・ルルー
・急行列車内の謎    F・W・クロフツ
・八点鐘        モーリス・ルブラン
・犬のお告げ      G・K・チェスタトン
・密室の行者      ロナルド・A・ノックス
・エンジェル家の殺人  ロジャー・スカーレット
・三つの棺       ジョン・ディクスン・カー
・帽子から飛び出した死 クレイトン・ロースン
・チベットから来た男  クライド・B・クレイスン
・妖魔の森の家     カーター・ディクスン
・北イタリア物語    トマス・フラナガン
・51番目の密室     ロバート・アーサー
・帝王死す       エラリー・クリーン
・はだかの太陽     アイザック・アシモフ
・ジェミニー・クリケット事件 クリスチアナ・ブランド
・そして死の鐘が鳴る  キャサリン・エアード
・選挙ブースの謎    エドワード・D・ホック
・見えないグリーン   ジョン・スラデック
・D坂の殺人事件    江戸川乱歩
・蜘蛛         甲賀三郎
・完全犯罪       小栗虫太郎
・燈台鬼        大阪圭吉
・本陣殺人事件     横溝正史
・刺青殺人事件     高木彬光
・高天原の犯罪     天城一
・赤罠         坂口安吾
・赤い密室       鮎川哲也
・名探偵が多すぎる   西村京太郎
・花の棺        山村美紗
・ホロボの神      泡坂妻夫
・求婚の密室      笹沢佐保
・天外消失事件     折原一
・人形はテントで推理する 我孫子武丸
・緑の扉は危険     法月綸太郎
・哲学者の密室     笠井潔
・ローウェル城の密室  小森健太郎
・すべてがFになる   森博嗣
・人狼城の恐怖     二階堂黎人
・スウェーデン館の謎  有栖川有栖

 もともとは20年前の本で、本来ならデータのアップデートがあってしかるべきなのかもしれないが、イラスト担当の磯田和一が亡くなっているため、残念ながら新規追加はない。とはいえ、紹介文はどれも作品の魅力をしっかりと伝えているので、ミステリー好きなら紹介された作品を読みたく(あるいは再読したく)なること請け合い。自分はフットレルとかホック、甲賀三郎、大阪圭吉を読んだり再読したりしたし、これを読むまで興味ゼロだった人狼城を読んでみよっかなあという気にもなっている。
 データが古いということは、入手が容易という要素にも変化があるということで、たとえば『見えないグリーン』はアマゾン品切れだし、中古価格はやたら高いし、日本の古本屋で検索したらヒットしないし、原書はキンドルないしとあとは図書館に賭けるしかない状態。こういう素敵なブックガイドで取り上げているのだがら、早川は電書化してくれ。
 現時点で18作は読んだことがあるものなのだけど、最近読んだものを除くとどんな密室だったかどんな解決だったかほぼすべて覚えてなくて、あんまり密室興味ないのかもとか思った。その一方で中学校だか高校だかで読んだ『名探偵が多すぎる』の鍵がしまらなかったことを数十回単位で証明されているって場面はクリアに覚えてたりする。西村京太郎すげえって感じである。『花の棺』のトリックはたしかこないだドラマで見たあれだったよなとかも。映像の定着力は馬鹿にならない。あと『ローウェル城』は友達から「読まなくていい、トリックはこうだ」と言われ、「そりゃ読まなくていいわ」という会話を二十数年前にしていたことを思い出した。ある意味、トリックのインパクトが大きかったから覚えていたのだと思われる。
 これでネタばらししていたら藤原宰太郎だよなとも思うのだが、クリスティーのあれとかあれとかを先にトリック聞いて「マジで?」ってものを読んだ身としてはバラしてもらったらより読みたくなったんじゃないかという気がしなくもない(いくつかは「くだらねえー」ってなって読む気失せるかもしれないけど)。
 ともあれ、いろいろ読みたくなるので起点としてはいい本。起点といえば、これを読んでいるあいだに斎藤工演じる火村英生のスペシャルドラマも放映されて、この本面白いし、以前やってた連ドラも面白かったしと眺めてみたら案の定楽しくて、火村シリーズに手を出してしまった。なので個人的には有栖川有栖の一冊目にも使えるんじゃないかと思う。これだけ楽しそうに作品紹介できる人なら実作も楽しいんじゃないか、みたいな感じで。


有栖川有栖の密室大図鑑 (創元推理文庫)

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