2019年4月15日月曜日

スージー鈴木 『チェッカーズの音楽とその時代』



今、あえて言おう。チェッカーズは、日本最後のロックンロール・バンドだった。「涙のリクエスト」「ジュリアに傷心」「NANA」「I Love you,SAYONARA」「Cherie」「Blue Moon Stone」…時を超えて感じる新たな魅力。愛しのシングル全30曲徹底解説。大土井裕二、鶴久政治のロングインタビューも掲載!
昨日やっと入手して一気読みした。チェッカーズ好きなんで感想エントリなんてあげると膨大になりそうだと思いつつ、細かい話は別エントリにすりゃいいのかと気がついて、はや読書メモなどもつくりだしている(まだ本文には入っていない)。
 そうすると、一曲一曲の話は別個で書くだろうから、全体の感想として何を書いたものかという話になるんだけど、まあいつもどおり思いつくままに。

まず客観的に考えて結構凄いと思うのは1992年(前世紀!)に解散したバンドの評伝ならともかく、全シングル分析なんて本が2019年に出るという事実が凄い。帯も音楽性を前面に出して、

今、あえて言おう。チェッカーズは日本最後のロックンロール・バンドだった。
である。

で、全シングルと聞いたときに、それはカップリング(あるいはB面曲)こみだと思っていたら、タイトル曲だけだったのも凄い。30曲だけの解説で1冊作ってしまったのである。全曲ならたとえば「隠れた名曲編」だとか 「シチュエーション別はまる曲編」だとかいくらでもコーナー作れるのに、リリース順にシングル曲を語っていくという「けれん味のないアプローチ」の愚直さが凄い。

さらに、大土井裕二と鶴久政治のロングインタビューを載せているのが凄い。全員じゃなく、バンドの顔だった藤井フミヤでもリーダーの武内亨でもなく、ユージとマサハル。この人選にはとてもパーソナルなものを感じた。ここも凄い(が、内容については触れない。なんでかってこの本の大きな売りはここだから。本書なければ読みようのないデータが収まっているわけ、ここに)。

で、おれがチェッカーズのファン(元ファンじゃないよ。今も聴いてるんだ)だからこう思うんだろうけど、今になってこんな本が出ちゃうチェッカーズほんと凄い。その凄さたるや、本書のアプローチが包括しきれていないくらい凄い。

と、考えるのは、こんな本を書いちゃう著者をして激賞してる曲はほとんどないのである。しかもこれ、自分の感覚だとあまり違和感がない。当然そこからは、「じゃあ、なんでこんなに聴いてるの?」という疑問が生じる。自分ひとりの話であれば、「不思議だなあ」なんだけど、プロの音楽ライターをしてなお、同じような不思議を孕む文章をものしてしまう以上、通常のアプローチではチェッカーズの魅力の核には届かないのだという可能性が見えてくる。そこで知識ないまま、手持ちの情報で割と真剣に考えてみた結果、NANA以降のオリジナル楽曲に関しては、90年代以降の「キャッチーなサビ」というか一目惚れ発生を狙ったアプローチではなく、「飽きられないことを目指した楽曲作り」がなされていたのではないかという仮説を得た(初期の楽曲は一目惚れ狙ってそれに成功した傑作たちなので、あくまで中期以降の話)。

「飽きられない」ったって、そもそも一発目で気に入られなければ聴いてもらえないじゃないかと反射的に思うのは当然なんだけども、最初の五曲で固定客がついていたことに加えて、彼らの活動期の中盤までは毎日音楽番組が流れていたのだから、出せば電波に乗ったのである。となればキャッチーである、以外の戦略にも目はあったはずだ。以前フミヤがインタビューで新しくも古くもないスタンダードになることを目指したみたいなことを言っていた記憶があるのだけど、あれもキャッチーであること以上に飽きられないことを狙ったという意味で解釈できそう。

(追記:こんなこと言っちゃったけど、よくよく考えてみたら、中期以降の曲ってイントロがキャッチーな曲は多かった。「飽きられないことを目指した曲作り」ってのは「一目惚れ狙い」とのバランスの重心の問題と修正したい。比較的バランスが前者に傾いていると読んでほしい)

実際、本書を読んでいると、「このシングルの記憶は薄い」と言われるのは『運命SADAME』『Love '91』(『ふれてごらん』に当時の記載がないからおそらくはこれも)。歌番組がバタバタ倒れていった時期もそのあたりだったはずだ。個人的な話をすると、この『Love '91』 は初めて買ったチェッカーズのシングルで、たまに「なぜに最初気に入った曲が『Room』(1989)だったのに、シングル買うまでにこんなに間が空いたのか」と考えて答えが出ていなかったのだけど、今回この本読んで謎が一つ解けた気がした。露出が減ったので、飢えが出たのだ、たぶん。

テレビの申し子としてのチェッカーズという切り口があれば、もっと「チェッカーズの音楽とその時代」の正体に迫れたんじゃないかと思った次第。ただ著者がそこを見落としていたとは全然思わない。まず、チェッカーズの魅力として語られているのはライブが楽しいという話であって、どんなアーティストであっても、ファンは理解したければアルバムを聴けと言う。チェッカーズの音楽(性)の分析だけが主眼なら本書の切り口もそちらによったはずだ。シングルだけという選択には「テレビでかかった曲に限定する」ということを意味している(そう考えないと両A面扱いの『ブルー・パシフィック』が落ちてる理由がわからない)。ついでにギザギザの解説部分でどういう仕掛けがなされたかって話に触れているし、『One Nihgt Gigolo』では、イントロのアレンジがよく出来ているとしたあと、

それでも、このイントロ、よく出来た音楽性だけでは、ここまでの印象を残さなかったと思う。別の要素が大きく作用しているのだ。それは――フジテレビ系の当時の人気番組=「とんねるずのみなさんのおかげです。」におけるコントで、大々的に取りあげられたこと。
と書いて、楽曲分析なんてどこへやらでコントの解説をしている。しかもこの曲でこの話を入れるのは、百パーセント正しい(から、フミヤも2018年のカウントダウンライブでネタの再演を行った)。みなさんのおかげですを捨象した 『One Nihgt Gigolo』理解は十全な理解ではない(できれば捨象したいと思うことも多いんだけどね、そのほうが格好いいから)。同じように、テレビ露出量を捨象したチェッカーズ理解もたぶん十全なものにならないというふうに著者が理解しているのは、この辺からも窺えそうなわけだけど、そこまで語っていないのは、たぶん分量の問題(ベストテン登場分だけでこんな商品出せるくらいのデータを吟味しなきゃいけなくなる)と、語り方間違えると露出量の多さで過大評価されたと受け取られる問題をクリアしにくかったためではないかと思われた。実際難しいよね……。

とはいえ、ファンとしては続編の『チェッカーズの音楽と音楽番組の時代』みたいな書藉を夢想せずにはいられない。後発組だったので、知らない話もたくさんありそうだから、評伝+アルバム全曲紹介みたいな本も読みたい。せっかくだから「あれから30年」みたいな6人全員へのインタビューも読みたい。

途中ごちゃごちゃ言ったので最後に大事なことをもう一度繰り返します。2019年にこんな本出るの凄い。書いた人も出そうと思った人も、出させる気にさせたチェッカーズも凄い。またこういうの出して。読むから。


チェッカーズの音楽とその時代

ついでに最新のベスト盤もご紹介。音がいいんですって。

チェッカーズ・オールシングルズ・スペシャルコレクション(UHQCD)

オリジナルアルバム(サントラ、別名義除く)はこれでまとめて手に入る。


THE CHECKERS 35th Anniversary チェッカーズ・オリジナルアルバム・スペシャルCDBOX(完全限定生産)

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