2023年11月18日土曜日

Rodrigues Ottolengui "A Modern Wizard"

 

 昔、"After Sherlock Holmes: The Evolution of British and American Detective Stories, 1891-1914(アマゾン)"という本で知り、なんとなくダウンロードしていたのを思い出して読んでみた。著者はアメリカの有名歯科医でミステリーも書いた、みたいな紹介文だった。代表作は"final poof"という短編集で、これはエラリー・クイーンが歴史に残る優れた探偵小説短編集の殿堂「クイーンの定員」の一冊に選んでいる(邦訳はヒラヤマ文庫『決定的証拠(アマゾン)』)。

 で、毎日たらたら読んでいたのだけども、どうなっているのかというような筋の運びで、これはただの大駄作なのか、それとも奇書なのかという疑問がずうっと頭から離れなかった。ので、エントリー作るかと思った。

 冒頭は普通にミステリーっぽい始まり。時代は19世紀後半。ある女性が亡くなり、ジフテリアだとされたのだけど、別の医師が毒殺だと主張し、女と親密な関係だったメドジョラ(Medjora)という医師に嫌疑がかかる。メドジョラが姿を消しているため、いっそう怪しいと思われている。

 という話を新聞で読み、こんな事件を担当してえと言い合う弁護士のダドリーとブリスに来客が。やって来たのはメドジョラその人。無実を訴え弁護を依頼するが、もう数日は姿を隠していたいと言って去って行く。いかにも何か秘密がありそうな感じ。

 去って行ったメドジョラをダドリーとブリスの下で働いている見習いのジャック・バーンズが勝手に追跡する。彼は探偵志望で秘密を暴きたいと思ったのだ(読んでいたときは気づかなかったのだけど、これは『決定的証拠』その他で探偵を務めるキャラクターと同名なので、本作はシリーズ他作品の前日譚的な位置づけなのかもしれない)。で、メドジョラはどっかの廃屋に入っていって、バーンズが様子をうかがっていると、馬車がやって来て女が一人降り、やはりその廃屋に入っていく。バーンズも忍び込んで盗み聞きをしようとする。

 このあたりまで『二輪馬車の秘密』とか連想しつつ普通に昔のミステリーだなあと思いながら読んでいた。バーンズの盗み聞きでメドジョラとその女(大金持ち)が結婚の約束をしていることがわかる。女はメドジョラに二人で国外へ逃げようと言うがメドジョラは裁判を受けると断言。そこへ女を尾行していた警察が容疑者確保に乗り込んできて、メドジョラは家に火をつける。その過程でバーンズは盗み聞きしているのが見つかってしまい、メドジョラはバーンズを家の地下へ連れて行く。

 ここから最初の意味わかんねえ展開になる。家の地下は古代文明の神殿みたいな場所で、メドジョラは自分が現代よりも知識の進んでいた太古の文明の末裔なのだとか言い出す。でもって、この場所を人に知られるわけにはいかないからおまえには忘れてもらうとか言って、バーンズに催眠術をかける。かけられたバーンズはメドジョラの言うことに絶対服従みたいになって、言われるがままに記憶を飛ばし、自宅へ戻る。

 はて、ミステリーだったはずが、なんかおかしな方向へ飛び出していったぞ、こりゃいったいどうなるんじゃろと思っていると、どうなるもこうなるもというか実に意外なことにというか、裁判が始まる。家が燃え落ちてメドジョラは焼死したと思われていたが、ダドリーのところに予定通り出廷するという連絡が行き、そのとおりに現れる。

 でね、裁判場面が普通に続くの。古代文明も催眠術も一切でないで、証人の証言の粗から証拠としての信用性をひっくり返したり、意外な真実が提示されたりっていう。こんな時代に法廷劇が書かれていたんだねえとか前段忘れて感心するようなオーソドックスな場面が続き、メドジョラは無罪を勝ち取る。

 が、分量的にここまでで4割である。あと6割何するんだよと思ったら、今度は20年時代が飛ぶ。

 レオンって少年が、死の床にある母親から「おまえは私の子どもじゃない」とか言われてショックを受けるところから始まる。レオンには犬のロッシーしか友達がおらず、母だと思っていた相手から親子でないと突き放され、おまけにその女の親戚に権利を主張されて家を失うことが確定していて、詰みに詰んだ感じでいると、そこにメドジョラが現れる。メドジョラから何かやりたいことはないのかと言われたレオンはものが書きたいと言い、最近書いたエッセイをメドジョラに見せる。それは犬の死体の一人称で書かれた魂に関する考察で、メドジョラは感嘆する。で、メドジョラはレオンに自分のところで暮らしてはどうだろうと持ちかけ、最終的に犬のロッシーとふたりメドジョラのところへ転がり込む……みたいなところで大体前半終了。

 ミステリーだと思って読み始めていただけに、本来でしたらそこで話終わりなのでは……ってな無罪判決の時点で半分にも達してないのに驚き、「このあと何すんの?」と読み進めたら上記みたいな筋が展開し、「これ、どうなんの?」「これ、どうなんの?」と思っているうち、唖然とするような終わり方で物語が終わった。一応言っておくと、バーンズは後半になって再登場する(が、ほんとびっくりしたことに催眠術の話はまったく触れられない)。

 読み終えて「いったいなんだったわけ?」という疑問が残り、まだ解けないのだけども、場面場面が退屈ということもなく最後まで読めちゃうのがまた不思議というか、これほど「このあとどうなんの?」というか「このあとどうすんの?」しか考えずに小説読んだのっていつ以来だろう。

 いやあ、けったいなもんを読んだ。

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