2019年11月28日木曜日

梨木香歩 『f植物園の巣穴』


 先日『沼地のある森を抜けて』を読み、文章が片っ端から書き写したいくらい素敵!(じゃあ、なんで感想書いてないのか、それは最後まで行ったときの中身というかテーマ処理があんまりにもすっかすかで呆れてしまったからだ。文がうまさと物語の達成度がこんなに乖離することがあるんだと驚いた。もうね、編集者が余計な指摘して話を台無しにしたに違いないと思いたいくらいだった)  ってなったので、もう数冊は文章楽しむだけと割り切って読むかと手を出した。そしたらこっちは断章で構成されてて、だいぶ肌合いが違った。書き写したいと思うほどしびれはしなかったものの、ふわふわとした心地よさがあって、多彩だなあと感心した。内容的には大昔に読んだ『西の魔女が死んだ』同様、深読みと称するタイプの読解する読者が喜びそうな感じで、表面だけ見ると歯科医のおかみさんがなんで犬になるとか、下宿先の家主が鶏になるとか、そういうもんだと思えば楽しい感じ。主人公佐田豊彦の一人称はやや時代がかっていて癖があり、しばらくは現代ものだと思っていたので、いくらなんでもこのような心内分には無理があるにではあるまいかという気もしたが大叔母がリアルタイムで明治維新を経験しているとか傷痍軍人の住んでる家が云々とか書いてあるので最低でも戦前を設定しているようだった。となると、長靴をくれた恩師は御雇外国人だったりするんだろうか。現代でない時代を舞台にすると当時の風物を無理やりにでもいれるのがお約束みたいなところあるけど、こんな感じにわかればわかれって書き方も悪くない(とはいえ、だいぶ戦時色濃厚な時代or戦中が時代設定の本命に思えたので、ちょっと書かなすぎではないかという気もした。ただ、ふいごで回る歯科のドリルとかのアイテムが醸す効果から考えると、ジブリ的な絵が欲しかっただけで具体的な日付のあるような時代とは関係がなかったのかもしれない)。ジブリという単語を出したのは、割とアニメの絵で場面をイメージしていたため。そのまんま映画にできそうだった。いや、前半のんびりしすぎてて厳しいかな。実際にはのんびりしているように見えるのも伏線なんだけど、230ページない本作で120ページ超えてなお「これってどういう話なの?」と首を傾げていたくらい、向かう先が見えにくい。人によっては我慢が必要かもしれない。それだけに最後のほうでスイッチが入り「こういう話」ってのがわかったときのおおおーってなる感じはなかなかだった。ネタバレしないとこんな隔靴掻痒の書き方になってしまうんだけど、ぼんやりしていた視界がクリアになる瞬間を味わってほしいので何がどうは書かない。ぜひぜひ自分で確かめてみてね。

 
f植物園の巣穴 (朝日文庫)

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