2020年10月17日土曜日

ジョーゼフ・キャンベル 倉田真木・斎藤静代・関根光宏訳『千の顔をもつ英雄』

 新訳が出てだいぶ経つのにKindle版が出ないもんだから、腹をくくって購入した。『スター・ウォーズ』はじめ、数々の作品、クリエイターにインスピレーションを与えたっていうので有名な本。神話における英雄の行動を「行きて帰りし物語」とまとめて、その切り口でギルガメシュから二十世紀一般人の夢までを紹介しつつ分析する。

 ジョーゼフ・キャンベルを知ったのは、高校時代。たまたまつけたテレビで『神話の力』(書籍版は今だと早川文庫で手に入る)が流れていた。最初はずいぶん古くさい話をしてるなあと思って眺めたんだけど、なんとなく最後まで見てしまい、続きの回もあるみたいだからということで残りも視聴した。考えてみればキャンベルもホーキングも『死霊』も知ったのはBSの番組だった。当時はすごいラインナップだったなあ。それはともかく、シリーズ見終えたときにはやたら感銘を受けていたらしく、キャンベルは忘れられない人になっていた。上で紹介した書籍版の親本は大学時代に買ったが、本書はお値段で手が出なかった。英語版のほうが全然安かったので、十年以上まえにひいひい言いながら英語で読んだが、読んだ端から忘れていくのでこりゃいつか再読せねばと思っていたのだった。長い宿題が終わった気分。

 で、これだけ縦横無尽に各地の神話を横断しているのに、索引がないのは不便だなあと読みながら思い、そういえば『マルジナリアでつかまえて(感想)』に索引つくるとか書いてあったと思い出し、軽く索引作ってみますかねってな気になった。『マルジナリア』ではエクセルファイルが使われていたけども、ローカルに入れといたって肥やしになるだけだし、紙に出力したってなくすだろうってことで、はてなで公開してみた

 やってみて面白かったのは、言及ページ数で行くとブッダがぶっちぎってるなとか、ユングは思ったほどページ割り当てられてないなみたいな、印象と実際が違ったところなわけだけど、印象と実際がいちばん違ったのは何かって言うと、本書が神話の紹介にそれほどウェイトを置いていなかったということである。言及はあっても解説はないみたいなものがかなりあるのは、言及ページが連続していない項目がほとんどであることからもわかる。個人的には「そうだったんだ!」とびっくりした。

 そうすると、もうちょっと神話の概要を知っておいたほうが楽しいだろうかと『世界の神話(amazon)』も読んでみた。神話を知りたい場合には、こっちのほうがコンパクトでいいかもしれない。『千の顔をもつ英雄』はキャンベルの神話観を知るために読む本かもなあというのが現時点での印象。クリエイター御用達な部分は前半に集中している気がするし。

 いずれにせよ、たまに読むキャンベルはいいなあということを再確認。いずれは『神の仮面』も読了したいが、さしあたってはケルト神話かインド神話に手を出すべきだろうか(クー・フーリンとシヴァが言及ページ数多いほうのキャラだったせいでそう思っているのかもしれない)。ついでに今の研究がどんなふうになってるのかとかも気になる(だってこれ、だいたい70年くらいまえの本だしさ……パラダイムシフトみたいなことも起きているんだろうか)。