2019年4月18日木曜日

川島高峰 『流言・投書の太平洋戦争』



戦時下、前線に赴く兵士を見送った家族が死守した銃後の本土日本。深刻な食糧不足や激化する空襲のなか、人々は何を考え、何を感じていたのか。厳しい言論統制を行い、国民の日常会話も監視した治安当局は、民衆の流言蜚語や不穏投書を克明に記録した。『特高月報』等のこれら治安史料と日記を駆使し、庶民の心情と実態に迫る異色の戦時下日本の歴史。
目次

  • 序 禍害と被害――記憶の十字交差を越えて(読書メモ
  • 第一章 「開戦」と日本人
    • 第一節 「臨時ニュースを申し上げます」(読書メモ
    • 第二節 緊張から熱狂へ(読書メモ
  • 第二章 戦争の長期化
    • 第一節 戦争熱の冷却(読書メモ
    • 第二節 ガダルカナル「転進」と「大本営発表」
    • 第三節 忠誠と不敬の間
      • 〈コラム〉「太平洋戦争」の常識について①
  • 第三章 山本五十六の戦死
    • 第一節 戦局の熾烈化を知る
    • 第二節 世相の悪化
      • 〈コラム〉「太平洋戦争」の常識について②
  • 第四章 サイパン政変
    • 第一節 戦局悲観へ
    • 第二節 小磯内閣と「世論指導」
      • 〈コラム〉「太平洋戦争」の常識について③
  • 第五章 空襲と戦意
    • 第一節 東京大空襲
    • 第二節 焼け跡社会
  • 第六章 焦土の中の民衆
    • 第一節 世相悪化から治安悪化へ
    • 第二節 “一億玉砕”へ
  • 第七章 玉音放送直後の国民の意識
    • 第一節 「忠良ナル爾臣民ニ告ク」
    • 第二節 「現実」への対応
  • 原本あとがき
  • 学術文庫版によせて
  • 資料 太平洋戦争関連地図
    • 「宣戦の大詔」
  • 参考文献


親本が読売新聞社から発行されたとは今からじゃ信じられない本。いやあ、おっかねえわ。開戦から玉音放送直後までの民衆の声ってやつをあれこれの史料から引っぱって当時の再構成を試みているんだけど、フェイクを鵜呑みにする感じとか、世間の常識と現実が合わないときに世間の常識についていることを確認して思考停止するところとか、人災を天災扱いするところとか、お上が無策でひたすら民衆にポジティブさを要求するところとか、今読むとわかりすぎて嫌だ。当然のごとく版は切れているので買っといてよかったなあと思った。石原慎太郎が「戦時中の日本人は美しかった」とか昔抜かしたことがあったけど、ありゃ家がよほど裕福だったか、年取って記憶が改ざんされたかどっちかだね。で、『国体論』(感想) と合わせて考えると、たまに言われる「焼け野原になるまでわからない」ってフレーズも実は間違ってて、「焼け野原になってもわからない」が正解みたい。先行き暗いなあ。
 とりあえず、先に最後の「降伏直後の反応」ってアメリカ戦略爆撃調査団のアンケート調査の結果だけ引いておく。

後悔・悲嘆・残念 三〇%
驚き・衝撃・困惑 二三%
戦争が終わり、苦しみも終わりだという安堵感または幸福感 二二%
占領下の扱に対する危惧心配 一三%
幻滅・苦しさ・空虚感、勝利のためにすべてを犠牲にしたが、すべて無駄だった 一三%
恥ずかしさとそれに続く安心感、後悔しながらも受容、予想されたが、国史上における汚点と感じる 一〇%
予期していた、こうなるとはわかっていたとの観念 四%
天皇陛下のことが心配、天皇陛下に恥ずかしい、天皇陛下に申し訳ない 四%
回答なし、またはその他の反応 六%
合計一二五%
(二つ以上の反応を示した人もいたため、合計は一〇〇%以上となる)
「天皇陛下に申し訳ない 四%」ってのは、今だったら狂信的政権信者に該当する数字だと思うんだけど、教育勅語だ現人神だって国を挙げて洗脳かけても四%しか理想的臣民(これ、理想的臣民でしょ)にならないというのに、戦争の反省にたって作られたはずのカリキュラムで政権盲従者が今みたいな割合でいるって現実突きつけられると、戦後ってのはいったいなんだったんだろうって気分になる。いや、ほかのデータもほんとに、「うわ、今戦争始まったらこうなるでしょ」って感想持つようなものがたくさんあるんだよ。そうなってくると、おれらって平和主義の民主主義国なんかで育ったんだろうかという疑問がどうしても浮かんでくる。この四%が四〇%だったら、そんなふうに思わずにいられたのになあ。
 この本320ページくらいあるんだけど、抜いておきたいところが色々あるので、後日追記していくつもり。


流言・投書の太平洋戦争 (講談社学術文庫)

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