2019年1月25日金曜日

2018年に印象に残った本

 もう一月も終わろうとしておりますが、去年読んで現時点で印象に残った本を並べてみます。順番は読んだ順。2016年のものはこちら

『ディレイ・エフェクト』宮内悠介(amazon



内容紹介

いまの東京に重なって、あの戦争が見えてしまう――。
茶の間と重なりあったリビングの、ソファと重なりあった半透明のちゃぶ台に、曾祖父がいた。その家には、まだ少女だった祖母もいる。
あの戦争のときの暮らしが、2020年の日常と重なっているのだ。大混乱に陥った東京で、静かに暮らしている主人公に、昭和20年3月10日の下町空襲が迫っている。少女のおかあさんである曾祖母は、もうすぐ焼け死んでしまうのだ。
わたしたちは幻の吹雪に包まれたオフィスで仕事をしながら、落ち着かない心持ちで、そのときを待っている……。
表題作「ディレイ・エフェクト」の他、「空蝉」と「阿呆神社」を収録した驚愕の短篇集。
いま最も注目されている宮内悠介が、時の流れをこえて、この世界の真実に迫る!
芥川賞候補作品
何しようっての? って設定から、かなりストレートに現代の問題点を指摘するクライマックス、そして……。同じく芥川賞候補になった「カブールの園(amazon)」と較べると、設定にとまどうものの誤読のしようはなく、わかりやすく、そして胸が熱くなった。

『エスカルゴ兄弟』津原泰水(amazon



内容紹介
〈問題の多い料理店、本日開店いたします!〉
唯我独尊の変人カメラマンと、巻き込まれ体質の元編集者、男二人の無謀な挑戦の行方は!?
笑いと感動で心を満たす、最高の料理&成長小説!!
出版社勤務の柳楽尚登(27)は、社命で足を運んだ吉祥寺の家族経営の立ち飲み屋が、自分の新しい職場だと知り愕然とする。料理上手で調理師免許も持っているし、という理由で料理人として斡旋されたのだ。しかも長男で“ぐるぐる"モチーフを偏愛する写真家・雨野秋彦(28)は、店の無謀なリニューアルを推し進め、前代未聞のエスカルゴ料理店〈スパイラル〉を立ち上げようとしていた。
彼の妹・梓の「上手く行くわけないじゃん」という嘲笑、看板娘・剛さんの「来ないで」という請願、そして三重の養殖場で味わう“本物のエスカルゴ"……。嵐のような出来事の連続に、律儀な尚登の思考はぐるぐるの螺旋形を描く。
心の支えは伊勢で出逢った、フランス女優ソフィー・マルソー似のうどん屋の娘・桜だが、尚登の実家は“宿敵"、讃岐のうどん屋で――。
「いざという時は必ず訪れる。その時には踊れ」
真剣すぎて滑稽で、心配でつい目が離せない。凸凹義兄弟、ちっぽけで壮大な“食"の軌跡。
一気読み間違いなしの、痛快エンタメ作!!
  
現在は『歌うエスカルゴ』と改題されて角川春樹事務所から文庫も出ていて、表紙はずいぶんポップになった(amazon)んだけども、読んだバージョンにやはり愛着を感じる(内容的には文庫版の表紙でいいような気がするけど)。猿渡もので豆腐好きを増やした(と、おれは信じている)著者の筆致はもちろんエスカルゴやうどんを食いたくさせるので、夜中には読まないほうがいいかもしれない。

『日本型ヘイトスピーチとは何か』梁 英聖(amazon


内容紹介
嗤いながら「死ね、殺せ」と叫ぶといった特異な醜悪性を放つ日本のヘイトスピーチ。その起源は朝鮮植民地統治時代に遡る。関東大震災時の朝鮮人虐殺、在日コリアンを“難民化"した〈1952年体制〉、朝鮮高校生襲撃事件やチマチョゴリ事件など、
間断なく続いてきたヘイトクライム事例・差別政策をひもときつつ、日本社会が内包してきた〈レイシズム/不平等〉を可視化する。
差別的言動を批判する本にはどうしてか感情的に書かれているという偏見がつきまとうが、本書はかなり徹底して国際的な規範などを比較し、そのうえで日本社会の抱える「反差別規範の不在」という問題を指摘している。ヘイトに汚染されたメディア空間(ネット含む)を生活から閉め出すわけにもいかない現代人には必読の本だろうと思う。

『ワニの町へ来たスパイ』ジャナ・デリオン 島村浩子訳(amazon) 




内容紹介
潜入任務でちょっぴり暴れすぎたせいで、一時潜伏を命じられた凄腕秘密工作員のわたしは、ルイジアナの川辺の町にやってきた。自分とは正反対のおしとやかな女性を演じるつもりが、到着するなり保安官助手に目をつけられ、住む家の裏で人骨を発見してしまう。そのうえ町を牛耳る地元婦人会の老婦人たちに焚きつけられ、ともに人骨事件の真相を追うはめに……。アメリカでは公認ファンクラブまである大人気ミステリ・シリーズ第一弾。
シリーズ第二弾のタイトル『ミスコン女王が殺された』(amazon)が、自分的に「数年に一度レベルのひどさ」に思えたせいで逆に興味を持ってシリーズ第一弾を読んでみたら、なんてことだろう、結構笑えて面白いじゃないかと拾いもの感たっぷりだった作品。ちなみに本書が終わるのは明け方くらいだったのだけど、第二弾が始まるのはその数時間後からで、主人公たちは息継ぐ暇もなさそうである。

『新版 歎異抄―現代語訳付き』千葉乗隆(amazon) 



内容紹介

あらゆる物を超越して一心に信じる強さ!救いがたい現代に贈る魂救済の活路
戦後間もない刊行であった旧版を一新。現代人のニーズに合わせた読みやすい現代語訳を付し、戦後の研究成果を盛り込んだ決定版。仏教史の権威が、真の読み方を解き明かし、現代に生きる親鸞の魅力に迫る!
弥陀の本願は、罪悪深重・煩悩熾盛の衆生を救ってくださるため―親鸞没後、その教えにそむいた、さまざまな異説が発生し、信者を混乱におとしいれた状況を歎いた著者が、師匠親鸞の教えを正しく伝えるべく、直接見聞した親鸞の発言と行動を思い出しながら書き綴った『歎異抄』。日本仏教史の権威が、真の読み方を解き明かし、現代人のニーズに合わせた読みやすい現代語訳を付した決定版。
悪人正機説(コトバンク)の内容を初めてちゃんと読んだ。結構びっくりしたので印象に残ったのだった。

『古典ギリシア語のしくみ』植田かおり(amazon




内容紹介

言葉にはそれぞれ大切なしくみがあります。細かい規則もいっぱいありますが、大切なのは全体を大づかみに理解すること。最後まで読み通すことができる画期的な入門書シリーズ!

音声は白水社のサイトから無料でダウンロードできます。
「しくみ」シリーズの3大特長
・言葉の大切なしくみ(=文法)がわかる
・しくみを読者みずからが発見していく構成で通読できる
・言葉の楽しさ、面白さ、そして発想の多様さを実感できる
こんな方におすすめ!
・はじめて触れる方:
言葉の大切な「しくみ」からスタートするので実に効率的。
・これまで勉強したことがある方:
断片的な知識が整理され、応用力がつく。
・挫折したことがある方:
言葉のしくみをみずから発見していく構成のため、必ずや通読できる!
・シリーズ全体を読む方:
どんな言語学の入門書を読むよりも「言葉」の面白さを実感できる。
興味よりも必要から目を通した本だったんだけど、古典ギリシア語って面白いなと思わせてくれた(ただし、もう内容はほとんど抜けている。ひとつの名詞に、冠詞が複数つくことがあるということだけ、あまりにショックで忘れられないけど)。勉強本じゃなくて読み物として読む分には傑作と言っていいんじゃないかと思う。

『深夜の博覧会』辻真先(amazon) 




内容紹介
昭和12年(1937年)、銀座で似顔絵描きをしながら漫画家への夢へ邁進している那珂一兵のもとを、帝国新報(のちの夕刊サン)の女性記者が訪ねてくる。5月末まで開催中の名古屋汎太平洋平和博覧会の取材に同行して挿絵を描いて欲しいというのだ。華やかな博覧会の最中、一行が巻き込まれた殺人事件。名古屋にいたはずの女性の足が、遠く離れた銀座で発見された――! 名古屋、東京間に仕掛けられた一大トリックに、那珂少年はどんな推理を巡らせるのか? 空襲で失われてしまった戦前の名古屋の町並みを、総天然色風味で描く著者最新長編。
銀座に血の雨が降るところ、辻真先作品読んでて初めてってくらいわくわくした。定番のイメージなんだけど、書き方がよかったんじゃないかと思う。そして何より、作中で関東大震災時の朝鮮人虐殺に触れた箇所である。
なん年かたって世代が替われば、本当にあのとき朝鮮人の暴動はあった、自警団の行動は正当防衛だ! そういいだして定説を否定する者が出るのだろうか。日本人がそこまで愚かとは、一兵だって思いたくないのだが。
このご時世にど真ん中の直球ぶっ込んできたなと痺れたのだった。オブラートも糞もない。怒りが伝わってくるんだ、ここ。


『殺す・集める・読む―推理小説特殊講義』高山宏(amazon


内容紹介

ホームズ冒険譚を世紀末社会に蔓延する死と倦怠への悪魔祓い装置として読む「殺す・集める・読む」、マザー・グース殺人の苛酷な形式性に一九二〇~四〇年代の世界崩壊の危機を重ね合わせる「終末の鳥獣戯画」他、近代が生んだ発明品「推理小説」を文化史的視点から読み解く、奇想天外、知的スリルに満ちた画期的ミステリ論。
ホームズ語ってるところの勢いは素晴らしかった。今読むとお気楽なこと言いやがってという気がする部分も散見されるんだけど、そこを差し引いても冒頭のホームズ論は読む価値ありだと思う。でもって、この本読んで『ドラキュラ紀元』を読む気になって、今その準備でブラム・ストーカー読んでる。読みにくくはないけど、こんなに長いとは想像してなかったってくらい長い。

その他

あと面白かったのはルネ・ホッケのマニエリスム関連、穂刈瑞穂の『プルースト印象と隠喩』、ホロヴィッツ、前野直彬の『漢文入門』とか。特にまとめとか感慨とかないのでこのエントリーこれにて終了。

0 件のコメント: